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『art node TALK』タイのアートスタジオの現在

せんだいメディアテーク主催のトークイベント。

analogの企画として、タイのバンコクにある版画工房PPPスタジオのメンバーを招待した。

PPPスタジオは版画の中でもエッチング凹版を専門にしたスタジオである。

まずは簡単に彼等との出会いを説明する。

今年の2月、僕は協働中の日本のアーティストに誘われバンコクで開催されていたとある展示に来ていた。

川沿いの古い大型倉庫を改装したアートスペースであるその場所では、年に一度アートファウンドというイベントがおこなわれていた。

タイ国内に限らず近隣アジア諸国やヨーロッパからの出店など、現在タイのアートシーンがどれだけ活気に満ちているかを肌で感じられるようなイベントだった。

僕はそこで彼等と出会う事になる。

「初めてのバンコクならば明日以降はどこを周るつもりだ?」

「何も決めてない」

「ならうちのスタジオに来ないか?」

予定は急遽、翌日彼等のスタジオへ遊びに行く事に決定した。

こうして行き当たりばったりの出会いだったが、丸2日間PPPにお世話になる事になる。

人生初のエッチングを経験させてもらう中で、そもそもまともに英語を話せないながらも技術的な部分だったり作る過程での楽しさは言語を超えて共感できていたように思う。

さて、そんな経緯があり彼らを仙台に招待した訳だが、トークの内容をどのようなものにするか? について振り返ってみる。

まずはお互いのスタジオの在り方について考えてみる。

誰の為のスタジオなのか。

PPPは主に版画アーティストに対して、一方analogはプロダクト製作者である。

次に技術的な事についてはどうか。

PPPはエッチングプレスに対してanalogはエッチング以外の技術を提供している。

版画であればシルクスクリーン版画。

このように考えた時、双方で意見交換ができる内容を改めて考えると、運営について、表現について、コミュニティについて、そして互いのスタジオが協働できるであろう先の可能性についてと絞り出すことができた。

これならいける。運営については全ての源ではないだろうか。

というのも僕は常日頃、消費の為のコストと期限に悩まされている。それらが反復していると時間やアイデアも消えいってしまうように感じることがある。

簡素な物ほどそうではなかろうか。

アートは簡素な物とは限らない。効率も似合わない。

それでは、アートを作り出す環境の場合どうであろうか。

活動を止めずにいられる為の運営をそもそもの源と考えてみる。

それに協働する可能性については検討もつかない。でも、おもしろいのではないか。

そして、スタートを切る事になった。

彼等の母国語はタイ語で英語は第2言語であることから、細かい事を理解してもらうには言語の隔たりがある。

そのため、彼等にはあらかじめ質問を投げかける事にした。

事前にメールで3回のやりとりを重ね、本番前日に対面してのミーティングをしたりと、回を重ねるごとに彼らのセンシティブな経営の方針などを理解していった。

前日のプレゼンリハーサルではすでに本番に設定している1時間半のリミットを軽く超えてしまう内容になっていた。

僕と通訳を担当してくれたビルドフルーガス高田さん、それと彼等と話し合い、クロストークを極力控え、彼等のプレゼンを最大限伝える努力をしようということになった。

いざ本番当日、彼等と準備を進めていく。

彼等はあらかじめ準備していたエッチング用プレートとニードルを客席に配置する。

トーク参加者の軌跡を版画に残したいという願いから、プレートへ何か刻んでもらう為である。

いざ、トークスタート。まずは彼等の自己紹介から。

pppのメンバー3名は、それぞれ経営面で仕事の役割が違う。

コントーンは版画技術者。

主にスタジオでの制作や外部への出張ワークショップなどを担当するプリンター。

タオはメディアの仕事を本業におきつつ、主にPPPの広告宣伝を担当している。

プンは、日系会社のタイ支社で東南アジア全般のマーケティングをやりながら、PPPでもマーケティングを担当している。

学生時代に法律を専攻していたこともあり、それを運営に活かすこともあるという。

彼等は学生時代に留学先のロンドンで出会いコントーンの熱意に共感し、スタジオをはじめる決意をした。

2014年アーティストの為の版画芸術の場としてPPPスタジオをオープン。

しかし、タイ国内での版画芸術に対する認知の低さからアーティストを専門とした版画スタジオは経営が安定せず、1年で閉鎖する事になったという。

タイ国内で彫刻やペイントについての認知は高い。

しかし版画芸術においては日本や諸外国ほど知られていない。

そこで、まずは版画芸術を認知してもらう活動をしていくことを目的とした。

共同オーナーである3人がそれぞれの専門を活かす事で役割を担い、再スタートを切ろうという形で2018年2度目のスタジオをオープンさせる。

目的を明確にしたことで、新しい層を取り込むための活動として、カフェや大学などへの出張講義、ワークショップを行うようにした。

またメディアを使った広報宣伝として、大学で版画講師を務めるコントーンの教え子で歌手やモデルとして活動する女性姉妹グループなどがスタジオのプロモーションを買って出てくれることとなった。

その他、僕が彼等と出会った大規模なアートイベント(アートファウンド)への出展などが機会となり、新たなアーティストとの繋がりから共同制作までを行うようになった。

このような活動により裾野を広げることに成功し、1回目の課題である「版画芸術の認知」についてをある程度クリアする事に成功した。

タイのアーティストの表現とコミュニティについては様々なようだ。

例としてコラボするアーティストの経歴をいくつか紹介してもらう。

ローレイ、彼はタイの南部ホアヒン在住のアーティスト。これまでの仕事にペイント、彫刻、イラストレーションなどがある。

彼とのコラボレーションではエッチングならではのアウトプットを意識した。

アーティストが描くものをプリントするだけではなくPPPスタジオとして共同するための提案をし、アーティストの描くドローイングにコントーンのテクスチャー技術を混ぜ込み双方納得がいくまでトライ&エラーを繰り返した。

また、油絵作家であるロナゴーンの場合はこうだ。

油絵独特のテクスチャーをエッチング技術で極力正確に表現するという提案。それには次のような意図がある。

まずは技法の違う物をエッチングにて再現する技術の紹介。

それと1点物の作品は高価である物に対し、複製の技法である版画はある程度価格を抑えることができより手にしやすいという特徴だ。

ここまでアーティストとの共同について、それから版画芸術の認知を目的とした活動について、2つの重要な要素が母体となりこの先の活動へと繋がっていく。

そして、未来の展望については市場を見据えた話となった。

まずはホテルアートフェアの出展。

年に1度開催するホテルアートフェアでは、バンコク市内のとあるホテルの全個室がアートギャラリーになるという。

ここには世界中のコレクターやギャラリストが出展し、主に外国人へ向けた市場になっている。

それからanalogのようなスタジオとの協働について。

例えばホテルアートフェアへ出展される作品は様々で、作品形態はなんでも良いとのこと。

私達は繋がりを持つ事で新しい出会いや機会を生むことができる。

どんな共同もアイデアを出し合い互いに協議し具現化すれば良いのではないか。

このトークの場面では具体的なアイデアを出すまでに至らなかった。

しかしその後、彼らとプロジェクトを立ち上げ現在進行中だ。

それはタイのとある漫画家のストーリーを互いの国の言語で新たに本としてリメイクするというもの。

タイと日本のアーティストによりカバーアートを手がけ、PPPスタジオが表紙&本文の全編をエッチングにて印刷する。それをanalogが製本するというもの。

来年のホテルアートフェアの出展を目指し協働が始まっている。

このような内容にてトークを終了。

彼等が持参した作品紹介は来場者と直接対話をしながら行われる事になった。

ここまでで彼等を招聘してのイベントは完結。

その夜は集まった来場者や仙台のアーティストの方々と、意見交換を行い交流を深めることができたと思う。

さらにその後、お酒を飲み一緒にカラオケを熱唱できたのも、良い思い出になった。

菊地充洋(analog代表)

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